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大阪地方裁判所 昭和37年(行)45号 判決

大阪市東住吉区桑津町四丁目五八番地

原告

大久保美之助

右訴訟代理人弁護士

池田義秋

右訴訟復代理人弁護士

岡田和義

木村五郎

高谷弘子

大阪市東区大手前之町一番地

被告

大阪国税局長

吉瀬維哉

右指定代理人

上野至

吉田周一

戸上昌則

黒田守雄

松井三郎

東光宏

右当事者間の審査決定取消請求事件について、当裁判所はつぎのとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、申立

一、原告

被告か原告の昭和二七年分所得税審査請求につき昭和三七年八月一七日付でなした審査決定のうち、原決定を取消した部分ならびに給与所得額二四万六、〇〇〇円を除き、その余の部分の決定を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

二、被告

主文同旨の判決を求める。

第二、主張

一、原告の請求原因

(一)  原告は、昭和二五年に設立された訴外大東製菓株式会社(以下単に大東製菓という。)の設立当初からの代表取締役であつたが、昭和二七年分所得税の確定申告をなさなかつたところ、訴外東住吉税務署長が原告に対し原告の昭和二七年分の所得税につき昭和三〇年七月二八日付で別紙原決定欄記載のとおり原決定をなしたので、原告は同年八月二四日被告に対し審査請求をなし、昭和三三年一二月二五日付審査請求補充書にて原告の昭和二七年の所得は大東製菓からの給与所得二四万六、〇〇〇円のみであるからその余は取消すべきであると主張したところ、被告は昭和三七年八月一七日原告に対し右の審査請求につき原決定の一部(原告の給与所得額中六〇万円)を取消したうえ、別紙審査決定欄記載のとおりの審査決定をなした。

(二)  しかしながら、原告の昭和二七年の所得は前記給与所得二四万六、〇〇〇円のみであつて、他に何らの所得も生じていない。よつて、被告の右処分は違法であるので被告がなした審査決定のうち、原決定の一部を取消した部分ならびに給与所得二四万六、〇〇〇円を除いた、その余の部分の決定の取消しを求める。

二、被告の認否および主張

(一)  原告の請求原因第(一)項は認める。

(二)  同第(二)項は争う。

(三)  被告か原告の本件係争年度の所得金額を別紙審査決定欄記載のとおり決定したその算出根拠はつぎのとおりである。

1 算出根拠の一

(1) 原告の事業所得

原告は、昭和二七年一月二六日大阪市天王寺区 人町一番地所在学校法人天王寺カトリツク星光学院(以下単に星光学院という。)院長アンジエロ・マルジヤリアから同人名義で無為替輸入する砂糖の輸入手続およびその売却方一切を依頼され、これが実行の結果、この砂糖輸入販売等によりつぎのとおりの収益を得た。

イ 砂糖売上金額 三、四三九万八、〇〇〇円

(イ) 売上単価

原告が本件輸入にかかる砂糖(以下単に輸入グラニユー糖という)の販売をしたのは昭和二七年二月であつた。同年同月における大阪市場精白砂相場(斤当り)は、高値一〇四円二一銭、安値一〇二円七銭、平均中値一〇三円一四銭であつた。そして、グラニユー糖の価格は精白糖のそれより一円高いのが通常であつた。したがつて、当時のグラニユー糖の卸業者間における相場価格は斤当り一〇四円であつた(因みに、原告は本件輸入グラニユー糖を訴外小川義平らに対し、右相場の一〇四円以上の値段で販売している。)。

(ロ) 販売数量

本件輸入グラニユー糖は、昭和二七年二月四日神戸市生田区所在の高砂商行の倉庫に、一般保管貨物として二、二四〇袋(一袋一〇〇封度入)、証券発行貨物として二、一七〇袋・合計四、四一〇袋が入庫され、同月一八日までの間にその全部が出庫されたから、原告の販売数量は四、四一〇袋である。しかして一封度の重量を斤に換算すると〇・七五五九斤であるから、一〇〇封度入一袋の数量は七五斤強に相当する。よつて、原告が販売した輸入グラニユー糖の総数量は約三三万七五〇斤である。

したがつて、原告が販売した輸入グラニユー糖の売上金額はその売上単価(一〇四円)に右販売数量を乗じると、金三、四三九万八、〇〇〇円となり、右売上単価は低く見積つたものであるから原告には少くとも右売上金額以上の売上金が生じている。

ロ 必要経費 合計金 二、四九九万五、二四四円

(イ) 関税 二九五万五、三六〇円

(ロ) 砂糖消費税 三三三万三、九六〇円

(ハ) 荷扱料 三四万六、六四七円

(ニ) 保管料および荷受費 一二万三、二九四円

(ホ) 運賃 二三万五、九八三円

(ヘ) その他(輸入申請手続等準備費) 一〇〇万円

(ト) 星光学院に対する支払額 一、四〇〇万円

これは本件輸入グラニユー糖委託販売契約にもとづくものである。

(チ) 利益分配金 三〇〇万円

これは原告が本件輸入グラニユー糖の輸入許可の申請から現物の販売に至るまで訴外清洲正および蔦屋幸三郎の両名の協力を得たため、砂糖販売の利益の中から両名に対して分配金として各一五〇万円ずつ支払つたものである。

以上に従つて収支を差引計算すれば原告の事業所得金額は九四〇万二、七五六円となる。

(2) 原告の給与所得金額

原告が昭和二七年度に大東製菓からうけた給与所得金額は二四万六、〇〇〇円である。

(3) 総所得金額

原告の昭和二七年の総所得金額は、前記事業所得金額九四〇万二、七五六円に前記給与所得金額二四万六、〇〇〇円を合計した九六四万八、七五六円となる。

したがつて、原告の本件係争年度の総所得金額より低額の五六二万六、六八四円を原告の総所得金額と認定した被告の審査決定処分には何らの違法はない。

2 算出根拠の二

(1) 原告の事業所得

前叙の本件輸入グラニユー糖の輸入、販売等により原告はつぎのとおりの収益を得た。

イ 砂糖売上金額 二、九三七万五、九二八円

これは、訴外三和銀行寺田町支店に東田郎名義の当座預金口座を設定して本件輸入グラニユー糖の委託販売による収入金が管理運用され、かつ、その大部分が他店券の小切手、手形によつて入金されていた結果把握されたものである。

ロ 必要経費

前記算出根拠の一の(1)のロ必要経費の項において述べたとおりであつて、総額ならびに内訳も同一である。

以上に従つて収支を差引計算すれば、原告の事業所得は金四三八万六八四円となる。

(2) 原告の給与所得 二二四万六、〇〇〇円

イ 大東製菓から原告に支給された給与は金二四万六、〇〇〇円である。

ロ 大東製菓から原告に支給された簿外の賞与

(認定賞与)

原告が代表取締役であつた大東製菓(昭和二五年一〇月六日設立、資本金三〇〇万円、その株式は一〇〇パーセント原告の所有する同族会社)は昭和二七年三月二九日金二〇〇万円の増資を行なつた。この増資払込額は形式上は原告により一四〇万円、訴外浜中常一外九名により六〇万円、合計二〇〇万円が払込まれているが、実質的には大東製菓の別口除外財産である三和銀行寺田支店の原告名義普通預金より金一四〇万円、同銀行西村徳三名義の通知預金より金五三万円、同銀行徳田親男名義普通預金より金七万円、合計金二〇〇万円がそれぞれ増資払込期日である昭和二七年三月二九日に引き出され、直ちに同銀行の別段預金取扱口に払込み増資を完了したものであり、払込名義人は原告ほか一〇名となつているが原告のほかはいずれも名義株であり、実質払込人は原告である。したがつて、増資払込金二〇〇万円は大東製菓から原告個人に対して臨時的に支給された給与というべきもので、これは退職給与金以外のもの、いわゆる賞与(旧法人税法施行規則第一〇条の三第三項)に該当するので、旧所得税法第九条第一項第五号の給与所得と認定した。

(3) 総所得金額

原告の昭和二七年の総所得金額は、前記事業所得金額四三八万六八四円に前記給与所得金額二二四万六、〇〇〇円を合計した金六六二万六、六八四円となる。

したがつて、被告が右所得金額の範囲内で原告の本件係争年度所得税の総所得額を金五六二万六、六八四円と認めてなした本件審査決定は正当である。

三、原告の認否および反論

(一)  被告主張第(三)項の算出根拠一について

被告主張のうち、原告か訴外星光学院院長アンジエロ、マルジヤリアから同人名義で無為替輸入する砂糖の輸入手続およびその売却方を依頼され本件輸入グラニユー糖の輸入、委託販売に関与したこと、本件輸入グラニユー糖の販売時期が昭和二七年二月であつたこと、および被告主張の必要経費額(但し、関税、砂糖消費税の性質、利益分配金の性質については除く)ならびに原告の給与所得額が金二四万六、〇〇〇円であつたことは認めるが、その余は争う。

(二)  同第(三)の算出根拠二について

被告主張のうち、本件輸入グラニユー糖の輸入・販売に関する必要経費額(但し、関税、砂糖消費税の性質、利益分配金の性質については除く)ならびに原告の給与所得のうち金二四万六、〇〇〇円は認めるが、関税、砂糖消費税の性質、利益分配金の性質、ならびに認定賞与については争う。

(三)  昭和二七年における原告の本件輸入グラニユー糖の輸入、販売に関する事業所得は零である。

1 グラニユー糖の輸入販売の経緯ならびに契約内容

イ、原告と訴外星光学院の院長アンジエロ・マルジヤリアとの間において、昭和二六年ごろ、同人が右学院の校舎を増築する工事費用のため、アメリカ合衆国から輸入するグラニユー糖(二〇〇屯約三三三、三三二斤)を原告において加工販売し、その純益中より金二、〇〇〇万円を右学院に寄附すること、輸入税(関税)、および砂糖消費税は原告において負担するとの約定が結ばれた。

ロ そこで、原告は訴外清洲正をして本件グラニユー糖の輸入許可の申請に当たらせたところ、通産省は昭和二六年一〇月本件グラニユー糖の輸入を許可した。そして、本件グラニユー糖は昭和二七年一月末日に神戸港に入港された。

ハ 原告は同年二月五日関税二九五万五、三六〇円、砂糖消費税三三三万三、九六〇円、合計金六二八万九、三二〇円の税金を納付のうえ本件輸入グラニユー糖の引渡を受け、グラニユー糖の加工をなさないで(砂糖が値下がりしている時期であつたので売却を急いだ)訴外蔦屋幸三郎と共同して砂糖のままで販売し、同年二月末訴外星光学院に対し金一、四〇〇万円を支払い、残円六〇〇万円の債務を同院に対して負うことになつた。

ニ 同年三月ごろ、前記関税、砂糖消費税の負担をめぐり、原告と星光学院との間に紛争が生じた。そのころ、原告の手許には本件砂糖の販売代金の清算未了金七三八万六八四円が存していたので、右未清算金のうち、金三三八万六八四円は原告、訴外蔦屋幸三郎訴外清洲正においてそれぞれ金二〇〇万円宛取得した。

ホ ところが、同年六月二三日訴外星光学院は前記六〇〇万円の未払金債務の件に関して大阪府知事に対して「無為替輸入荷物処理報告に就いて」と題する書面にて原告を訴えた。

ヘ そこで、昭和三二年五月一六日原告と訴外星光学院との間において、本件輸入グラニユー糖の取引に関して原告は訴外星光学院に対して金三四〇万円を分割して支払う。第一回の支払期日を同年五月末日とし、以後毎月末金一〇万円を支払う旨の和解契約が結ばれた。その後原告は右学院に対し金四五万円の支払をなしたのみであつたので、右学院より原告に対し残金二九五万円の支払請求訴訟(大阪地方裁判所昭和三七年(ワ)第七七二号和解契約金請求事件)が提起され、同年一〇月二七日原告敗訴の判決が言渡された。

ト したがつて、原告の本件グラニユー糖の輸入販売に関する取得金は前記のとおり金三三八万六八四円であるのに、前記和解契約金は三四〇万円であるから、原告には本件グラニユー糖の輸入販売による所得はない。

2 関税、砂糖消費税の負担

原告おいて各税金を負担する旨の約束が原告と訴外星光学院との間に結ばれていた。なお、輸入者以外の者が各税金を支払うことを契約にて定めることも可能である。

3 利益分配金の性質とその額

原告が訴外蔦屋幸三郎、同清洲正に支払つたと被告の主張する各金一五〇万円の性質は本件グラニユー糖販売利益の分配金ではない。前記清算末了金を訴外星光学院との紛争解決に至るまでその頃設立の訴外大東製糖株式会社の資金として投資流用したものであつて、この投資により前記の各税金額(金六二八万九、三二〇円)に相当する利益を得る見込みであつたが予期に反して全損に帰した。

(四)  本件二〇〇万円の認定賞与について

被告は訴外大東製菓株式会社が昭和二七年三月二九日増資した金二〇〇万円の払込みが同会社の隠匿財産より払込まれたものであると推認し、それを同会社の原告に対する賞与と認定したが、右払込金は原告が昭和二七年初めごろその所有にかかる大阪市東住吉区桑津町四〇九番地(旧地番-新地番は同市同区同町四丁目二五番地を含むその周辺の地番である)宅地約七六〇・三三平方メートル(約二三〇坪)および同地上の木造平屋建居宅ならびに工場、約四九五・八六平方メートル(約一五〇坪)を訴外陳添財に売渡した代金一二〇万円で大部分がまかなわれている。

ちなみに、本件に関連する刑事事件(国税犯則事件)において告発者は前記賞与額を告発対象所得から除いている。

四、原告の主張に対する被告の反論

(一)  必要経費について

1 関税、砂糖消費税の性質

原告の主張する関税、砂糖消費税の合計金六二八万九、三二〇円は本件係争年分の原告の事業収入金額に対応する必要経費に該当しない。関税、砂糖消消税を原告が負担する旨の何らの定めもなく、したがつてかかる場合は輸入申請者である訴外星光学院が法律上当然負担すべきものであつたが、本件輸入グラニユー糖引取りの際、同学院にその支払資金が不足していたため原告が右税金の一時立替払をしたものである。ちなみに、原告は昭和二七年六月一八日付で大阪府知事に対して提出した無為替輸入荷物中間報告書において星光学院に同年二月六日金六二八万九、三二〇円を支払済みである旨屈出している。右の立替払額はのちに同学院に対する支払金一、四〇〇万円と同時に清算された。したがつて、右立替払額が必要経費になるというのは同学院に対する支払額という意味においてである。

2 原告主張の訴外大東製糖株式会社の設立は関税、砂糖消費税の負担者は誰れであるかとは全く関係がない。

3 和解契約金について、

原告主張の和解契約が結ばれたことは否認する。仮に、原告主張のように昭和三二年五月一六日訴外星光学院と原告との間に関税、砂糖消費税の負担額をめぐり、原告が金三四〇万円の支払義務を同学院に対し負う旨の約定が結ばれたとしても、当該金額は係争年分である昭和二七年の必要経費とはならない。すなわち、右約定は本件と関連する刑事事件の一審判決前になされたものであるうえ、その履行は金四五万円の支払がなされたのみでその余の支払は全くなされていないこと、およびその後一〇年を経過した昭和三七年に至つて同学院は原告に対して右約定にもとづく金員の支払を求めて訴を提起していることを考え合せると、所得税法上の権利確定主義により当該約定金員が昭和二七年分の収入すべき権利の確定した金額に対応する当該年分の必要経費を構成するとはいえない。仮に当該年分に帰属するものとしても、所得税法上必要経費としての法的性質を欠く所得の処分ないしは寄附金類似のものとして必要経費とはならない(ちなみに、所得税法上必要経費となる寄附金は現実に金員が支出された年分の必要経費となる)。

(二)  利益分配金について

原告は本件輸入グラニユー糖販売利益金の分配額ならびに性質を争うが、原告はすでに第一四回口頭弁論期日(昭和四〇年六月一日)に被告主張のとおりであることを認めている。

(三)  認定賞与について

1 原告主張のように原告がその所有にかかる宅地および同地上建物を訴外陳添財に売却した代金をもつて前記の訴外大東製菓株式会社の増資払込資金に充当した事実はない。

2 本件認定賞与額が原告主張のように告発対象所得額から除算された理由は、当時告発の対象となる所得は損益計算の方法によつて厳格に確定されなければならないとされていた(現在はいわゆる資産負債増減法によるも可)ところ、訴外大東製菓株式会社における金平糖等の販売による脱漏所得が不特定多数の顧客に対する現金売上除外によつて形成されていたため犯意の確定、取引先調査による損益計算が不可能であつたからである。

第三、証拠

一、原告

甲第一ないし第八号証を提出し、証人陳添財の証言を援用。乙第一九号証の一ないし三、第二八、第二九号証の成立は知らないが、その余の乙号各証の成立は認める。

二、被告

乙第一ないし第七号証、第八号証の一、二、第九号証、第一〇号証の一ないし五、第一一ないし第一四号証、第一五号証の一ないし五、第一六号証の一、二、第一七、一八号証、第一九号証の一ないし三、第二〇ないし第二五号証(第二六号証は欠番)、第二七ないし第三〇号証、第三一号証の一、二、第二ないし第四一号証を提出し、証人蔦屋幸三郎、同太田武次郎の各証言を援用。

甲第六号証の成立は知らないが、甲第二号証の原本の存在および成立を認め、その余の甲号各証の成立は認める。

理由

一、原告が昭和二五年に設立された訴外大東製菓の設立当初からの代表取締役であつたこと、昭和二七年分所得税について原告が確定申告をなさなかつたところ、訴外東住吉税務署長が原告に対し原告の同年分の所得税につき昭和三〇年七月二八日付で別紙原決定欄記載のとおりの原決定をなしたので、原告が同年八月二四日被告に対し審査請求をなしたことおよび被告が昭和三七年八月一七日付で原告に対右審査請求につき原決定の一部(原告の給与所得額中六〇万円)を取消したうえ、別紙審査決定欄記載のとおりの審査決定をなしたことは当事者間に争いがない。

二、そこで、原告の昭和二七年の所得金額について判断する。

(一)  被告主張の算出根拠一、についての判断

1  原告の事業所得の存否

原告が訴外星光学院院長アンジエロ・マルジヤリアから同人名義で無為替輸入する砂糖の輸入手続およびその売却方を依頼され、その輸入、販売をなしたことは当事者間に争いがない。

(1) 本件グラニユー糖売上金額

売上単価、原告が昭和二七年二月に本件輸入グラニユー糖の販売をなしたことは当事者間に争いがないところ、成立に争いのない乙第九号証、同第一〇号証の四、同第一一ないし第一四号証同第二二ないし二四号証および証人蔦屋幸三郎の証言によれば、昭和二七年二月における大阪市場精白糖相場(斤当り)は高値一〇四円二一銭、安値一〇二円七銭、平均中値一〇三円一四銭であつた、そしてグラニユー糖の価格は精白糖のそれより一円高いのが通常であつたところ、原告は訴外浜中商店を通じただけでも本件輸入グラニユー糖の六割にあたる数量を一斤につき一〇五円ないし一一〇円の単価で売却している事実を認めることができ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。したがつて、昭和二七年二月における本件輸入グラニユー糖一斤当りの価格は少くとも金一〇四円をこえる額であつたと推認するのが相当で

販売数量、成立に争いない乙第七号証、同第八号証の二、同第一六号証の一、二、同第一八号証、弁論の全趣旨および成立に争いない乙第二〇号証の記載により真正に成立したものと認められる乙第一九号証の二および証人太田武次郎の証言によれば、本件輸入グラニユー糖は昭和二七年二月四日神戸市生田区所在の高砂商行の倉庫に一般保管貨物として二、二四〇袋(一袋一〇〇封度入)、証券発行貨物として、二、一七〇袋、合計四、四一〇袋が入庫され、同月一八日までの間に原告によりその全部が出庫された事実を認めることができ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。したがつて、原告が販売した本件輸入グラニユー糖の数量は四四一〇袋(一袋は一〇〇封度入-七五斤)であつたと推認するのが相当であるから、これを斤に換算すると三三〇、七五〇斤となる。

したがつて、原告が販売した輸入グラニユー糖の売上金額は少くとも前記判示の売上単価(斤当り一〇四円)に販売数量(三三、〇七五〇斤)を乗じたもの、すなわち金三、四三九万八、〇〇〇円であると認められる。

(二)  必要経費

1  本件輸入グラニユー糖の販売に関する荷扱料が金三四万六、六四七円、保管料および荷受費が金一二万三、二九四円、運賃が金二三万五、九八三円、その他輸入申請手続等準備費が金一〇〇万円であることおよび本件輸入グラニユー糖の販売委託契約にもとづき原告が訴外、星光学院へ金一、四〇〇万円を支払つていることは当事者間に争いがない。

2  関税額が二九五万五、三六〇円、砂糖消費税額が三三三万三、九六〇円、合計金六二八万九、三二〇円であることおよび本件輸入グラニユー糖の引渡を受ける際原告が右金員を支払つたことは当事者間に争いがないところ、右金員が原告の負担に帰すべきものかあるいは訴外星光学院の負担に帰すべきものかについて(必要経費性について)争いがあるので判断する。

原告は本件グラニユー糖の輸入につきその関税、砂糖消費税は原告において負担するとの約定が原告と訴外星光学院との間において結ばれていた旨主張し、成立に争いない甲第三号証、同第四号証の記載内容はこれに符合しているけれども、成立に争いない乙第五号証、同第六、七号証、同第八号証の二証人蔦屋幸三郎の証言を総合すると、本件グラニユー糖販売委託契約の当初原告も訴外星光学院長も本件砂糖が無為替輸入であるから何ら税金は課せられないと思い、両者の間で税金のことについては少しも話し合うことなく単に売上げ金中より金二、〇〇〇万円程度の金額を星光学院に原告が支払うことに合意が成立したのであるが、原告は本件グラニユー糖が神戸港に入港してはじめて関税、砂糖費消税が課せられることを知り学院長にその旨告げたところ、院長は今手許に金がないから立替えておいてくれ、後日清算するからと言つたので、前記判示のとおり右税金を支払い本件グラニユー糖の引渡を受けて売却した上、前示二、〇〇〇万円程度の金額として右立替金の清算のほかに金一、四〇〇万円の支払い(その総額二、〇二八万九、三二〇円)をした事実が認められ、この事実と証人蔦屋幸三郎の証言に照すと右甲第三、四号証の記載内容は信用できない。他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。而して原告の関税、砂糖消費税額の支払は本件グラニユー糖の輸入者である訴外星光学院が支払うべきものの立替払と認められるから、右金員の支払は本件輸入グラニユー糖の販売委託契約にもとづく原告の訴外星光学院への支払金二、〇二八万九、三二〇円の内金として清算される性質のものである。

そうすると、原告の星光学院への支払金二、〇二八万九、三二〇円は本件輸入グラニユー糖の原価に相当するものであるから、この意味において必要経費と認められるので、原告の言う関税砂糖消費税額合計金六二八万九、三二〇円もこの意味において必要経費となるべきものである。

よつて、原告の星光学院への支払金二、〇二八万九三二〇円の他に関税、砂糖消費税、合計金六二八万九、三二〇円の経費を要した旨の主張は採用できない。

(三)  利益分配金

訴外蔦屋幸三郎および同清洲正の両名が原告の本件輸入グラニユー糖販売に関して、その輸入許可申請から現物の販売に至るまで原告に対し協力したこと、および訴外大東製糖株式会社が設立されたことは当事者間に争いがない。

原告主張の訴外蔦屋幸三郎、同清洲正両名に対する支払金の性質は本件グラニユー糖販売による利益金の分配ではなく、原告と訴外星光学院との間における本件販売委託契約の清算末了金を前記大東製糖株式会社の設立資金として投資流用したものである旨の事実を認めるに足りる証拠はない。むしろ、成立に争いない乙第七号証、同第八号証の二および証人蔦屋幸三郎の証言ならび弁論の全趣旨を総合すると、原告は本件グラニユー糖販売による利益を資金として前記大東製糖株式会社を設立したが、その際訴外蔦屋幸三郎、同清洲正両名に対し本件グラニユー糖販売に関する両名の協力の対価として各金一五〇万円を支払つた事実を認めることができる。したがつて、右両名に対する支払金合計三〇〇万円は必要経費というべきである。

(四)  和解契約金の性質

成立に争いない甲第七号証および弁論の全趣旨によれば昭和三二年五月一六日原告と訴外星光学院との間において本件輸入グラニユー糖の関税、砂糖消費税を原告が負担するか訴外星光学院が負担すべきものかに端を発した本件取引に関する紛争につき原告が訴外星光学院に対し金三四〇万円を支払う、星光学院はその余の請求を放棄する旨の和解契約が成立した事実を認めることができ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

そこで、右和解契約金三四〇万円の性質について検討するに、所得税法にいう必要経費は、事業所得については、仕入品の原価、原料品の代価、土地、家屋その他の物件の修繕費又は借入料、損害保険契約に基き支払をなす保険料、固定資産の減価償却費で命令で定めるもの、土地、家屋その他の物件又は業務に係る公租公認、使用人の給料、負債の利子その他の経費で当該総収入金額を得るために必要なものを指し、特段の事情のないかぎり収益に対応する年に発生し確定した費用をいうと解すべきところ、さきに判示のとおり、本件関税、砂糖消費税相当金は原告主張のような意味における必要経費における必要経費に当らず、本件加解は本件輸入グラニユー糖取引の必要経費にあたる経費についてなされたものでないから本件和解契約金三四〇万円が原告の昭和二七年の本件グラニユー糖販売による収入に対応する費用ということはできない。

よつて、この点に関する原告の主張は採用しない。

以上に従つて取支を差引計算すると原告の事業所得金額は九四〇万二、七五六円となる。

2 原告の給与所得金額

原告が昭和二七年度に訴外大東製菓株式会社からうけた給与所得金額が二四万六、〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。

そうすると、原告の昭和二七年の総所得金額は事業所得金額九四〇万二、七五六円に給与所得金額二四万六、〇〇〇円を合計した九六四万八、七五六円となる。

したがつて、その余の判断をするまでもなく、原告の本件係事年度の総所得金額より低額の金五六二万六、六八四円を原告の昭和二七年分の総所得金額と認定した被告の処分には何らの違法はない。

三、無申告加算税および重加算税

原告は、本件係争年においては申告すべき所得がなかつたから、本件無申告加算税、重加算税の賦課処分は違法であると主張するが、原告に前記判示のとおり事業所得が存在することが明らかであるから、それぞれの加算税賦課決定は適法である。

四、よつて、本件審査決定が違法であるとの理由で審査決定のうち、原決定を取消した部分ならびに給与所得二四万六、〇〇〇円を除き、その余の部分の決定の取消しを求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上三郎 裁判官 藤井俊彦 裁判官 大谷種臣)

別紙

原決定 審査決定

総所得金額 六、二二六、六八四 五、六二六、六八四

事業所得額 三、三八〇、六八四 三、三八〇、六八四

給与所得額 二、八四六、〇〇〇 二、二四六、〇〇〇

基礎控除額 五〇、〇〇〇 五〇、〇〇〇

課税総所得金額 六、一七六、六〇〇 五、五七六、六〇〇

算出税額 三、一八七、一三〇 二、八五七、一三〇

無申告加算税額 四三四、五〇〇 四三四、五〇〇

重加算税額 八一〇、五〇〇 七八九、〇〇〇

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